【場面緘黙全般について】

Q. 場面緘黙とは?

A. 主に自宅や両親の前では話せるのに、他の場面(学校や会社、友だちや先生の前)では話せない子ども(あるいは大人)のことを、場面緘黙と言います。英語では、Selective Mutismと表記するので、以前は「選択性緘黙」とされていましたが、自ら「選択している」という誤った理解を避けるために、場面緘黙症に統一するようになりました。

Q. 場面緘黙は治りますか?

A. 治ります。低年齢で介入を始めるほど、改善も早く大きな効果が見込めます。また、場面緘黙は「話せない」ことに注目がいきがちですが、それ以外にも体を動かす(ダンスや運動だけではなく、手を振るなどの単純な動作も)ことや、表情なども緊張してぎこちなっている場合が少なくありません。そういったお子さんそれぞれの特徴を詳細にアセスメントし、家庭や学校における取り組みを実行することで改善します。

ただし、場面緘黙のお子さんで、家庭における激しい癇癪や不登園・不登校、学力低下等の問題がある場合、緘黙と同時にそれらの問題を扱うことになります。その場合には相談期間が長くなり、緘黙自体への取り組みまでに時間がかかることがあります。

Q. 親の対応を勉強できる機会はありませんか?

日本場面緘黙研究会が、定期的に研修会や講演会活動を行っています。また、機関誌を発行していますので、そこで情報が得られると思います。

また、岐阜県には岐阜場面緘黙症親の会があります。残念ながら、2023年現在は活動を停止していますが、代表者のブログで、有益な情報を得ることができます(ginonnoさんのブログ

【場面緘黙への対応について】

Q. 場面緘黙の子を、話せないのに舞台に上げたり、踊れないのに運動会で集団の中に参加させるのはトラウマにならないか心配です(トラウマのページでも取り上げています)。

回答:人前に出ることに抵抗している子に、話したり踊ったりできないのに、そのような場面に直面させるかどうかはその子の経緯や抵抗の度合いにもよります。単純に不安に直面させればよいものでもありませんし、かと言って不安場面を排除し続けても場面緘黙は解消しません。1つの考え方として、「人前で話せないことを経験する」ことが「話したい」という動機づけにつながる可能性もありますので、両方の視点で判断しましょう。

Q. 場面緘黙の子との取り組みで、クイズやしりとりを取り入れるのはなぜでしょうか?挨拶やお礼などの一言からではだめでしょうか?

回答:最初から決まっていることはありませんので、挨拶やお礼を教えることでうまくいくならそれで構いません。ただし、場面緘黙の子が話せなかった場面で話し出す時、子どもからしたら楽しみにくい挨拶よりも、クイズに答えて正解したり、しりとりでルールが決まったやりとりを続けたりしたほうが“わかりやすい”と考えます。また、発話ができるようになった際、相手の質問に答えるだけではなく、相手に質問する(クイズを出す)ことも目標にできます。自然なキャッチボールにつながる可能性があります。ただし、挨拶などの一言から練習する方法と、どちらが優れているかということではありません。

Q. 家庭や学校で取り組む練習は何を意識して取り組めばよいでしょうか?

回答:場面緘黙は大抵の場合、「話せる領域・人」と「話せない領域・人」が本人の中で明確に区別されています。例えば、スーパーに行って家族だけとなら普通に会話できるのに、クラスメイトの姿が見えた瞬間凍りつく子がいます。その場合、「スーパーで家族だけ」なら話せますが「スーパーでクラスメイトの姿あり」だと話せないという境界線が成立しています。場面緘黙の心理治療では、練習によってこの境界線を本人の中で曖昧にしていく作業をします。例えば、スーパーで振り返らず(周りを確認せず)に家族と話すとか、店員にお礼を言うとか、1人で行動する(家族と離れる)、クラスメイトが遠くにいても家族と会話するなど、その子にあった練習を繰り返します。そして本人の中にある境界線を曖昧にしていき、徐々に「クラスメイトが店内にいても話せる」「クラスメイトが近くにいても話せる」などと領域を広げていく地道な作業をしていくのです。

Q. 場面緘黙の娘が、「ドキドキするから怖くて何もできなくなる」と言います。この場合、不安を抑える薬を飲むのは有効でしょうか?

回答:薬物療法についての統計的なエビデンスについては正確なことを言えません。SSRIが有効であったという研究報告があれば、有効ではなかったという報告もあります。個人的には服薬が奏功した事例には出会ったことがありません(奏功した場合には、心理治療には来ないでしょうから、当然のことかもしれません)。

いずれにしても、服薬したことで、人前で話せなかった子が、突然話せるようになるという劇的な変化はほぼないでしょう。服薬については慎重に検討しつつ、それ以外の方法を主軸として検討したほうがよいと思います。

ドキドキが怖いということであれば、ドキドキのメカニズムを説明した上で、ドキドキを味方につける練習をしましょう。

Q. 場面緘黙という理由で学校に配慮をお願いすることはできるのでしょうか?

回答:もちろん可能です。例えばクラスで挙手発表をしなければいけない場合でも、ほとんどの場面緘黙の子には難しいでしょう。前に出て発表となればなおさらです。担任や学年主任、あるいは校長先生にお願いしてみましょう。ただし、学校と交渉する際に「場面緘黙だから配慮してください」という言い方は、よほど慎重にするべきです。学校側も教育のプロなので親から指示をされると、内容に関わらず抵抗が生まれてしまうことがあります。そして、一方的な配慮要請は「過保護」とも勘違いされかねません。言い方としては、以下の例を参考にしてみてください。

NG:「我が子は緘黙で話せないので、ずっと配慮してほしい」という雰囲気が伝わってしまう言い方。

多分OK:「緘黙で話せないが、将来的には話せるようになってほしい。そのために徐々に変化を促すための対応をしていきたいし、実際にしている。それでも現状では●●というのは本人にとってはハードルが高いようなのですが‥‥」

Q. 無理に課題に取り組ませるのはよくないと言われますが、学校などで話せない期間が長くなればなるほど場面緘黙からの回復も難しくなりませんか?

回答:長引くほど回復は困難になります。もともと話せない子の場合には回復とは言わないのですが、いずれにしても「話せない子」として扱われている期間が長引くほど、そのイメージや先入観に逆らって話し始めるのは困難になります。ただ、だからと言って無理に課題に取り組ませる方法ではうまくいきません。「無理に」という単語がどこまでの対応を言うのか、ケースバイケースなので一概には決められませんが、本人から話したくなる(チャレンジしたくなる)環境設定を考えましょう。