行動分析学の社会問題への応用である「応用行動分析学」、またその一分野である「臨床行動分析」「行動療法」に関する書籍を紹介しています。応用行動分析学の中でも自閉症スペクトラムなどの子どもに対する療育関連の書籍は子育てや療育関連の書籍にて紹介しています。

1)場面緘黙の子どもの治療マニュアル

R・リンジー・バーグマン著 園山繁樹監訳(2018)場面緘黙の子どもの治療マニュアル 二瓶社

場面緘黙の子どもの治療マニュアル: 統合的行動アプローチ [書籍]

4歳から8歳までの場面緘黙のお子さんを対象とした内容です。「本人が相談機関に来談する」ことが前提となっていますが、段階的エクスポージャーや刺激フェイディング、随伴性マネジメントについて、網羅的に紹介されています。第13章「治療にあたって考慮すべきこと」では、学校の担任との間で起こりやすい問題がまとめられており、保護者が担任と交渉する際に参考になります。

2)うつ病の行動活性化療法

クリストファー・R・マーテル, ミッシェル・E・アディス, ニール・S・ジェイコブソン著 熊野宏昭・鈴木伸一監訳 (2011) うつ病の行動活性化療法−新世代の認知行動療法によるブレイクスルー 日本評論社

アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)や、機能分析的心理療法(FAP)などに並ぶ、行動分析学の考え方を臨床場面に応用した心理療法の一技法です。「うつ病の」と限定してありますが、考え方としては他の全ての精神疾患にも適用可能ですし、また病的なレベルではなくても、生活習慣や日常生活における「ちょっとした悩み」に対しても応用可能な考え方が紹介されています。

p.79の内容を引用して特徴を簡単に紹介しますと次のようにまとめられます。

  1. 人がうつ病に対して脆弱なのにはさまざまな理由がある。
  2. うつ病では、二次的な対処行動が重要な役割を果たしている。
  3. 行動活性化療法は、単に楽しい活動を増やすだけではない。
  4. クライエントは、気分の文脈に及ぼす自分のおかれた文脈と行動の影響に細心の注意を払うべきである。

本書では、うつ病を「脳の障害」としてしまうことには明確に反対を表明しており、それは他の臨床行動分析領域における心理療法とも共通しています。

3)CRAFT  依存症患者への治療動機づけー家族と治療者のためのプログラムとマニュアル

ジェーン・エレン・スミス, ロバート・J・メイヤーズ著  境泉洋・原井宏明・杉山雅彦監訳 (2012)  金剛出版

EBP(エビデンス・ベースド・サイコセラピーあるいは、エビデンス・ベースド・プラクティス)が盛んになる以前から、グループデザインによるエビデンスを積み重ねてきた行動分析学をベースにした心理療法の一つ。一言で表すとすると、アルコールや薬物依存の人の家族(配偶者や両親、時に子ども)が、どうすれば治療を拒否している本人を治療につなげることができるのか?という本です。

専門用語はほとんど使用されておらず、当事者にとっては読みやすいと思います。

内容の半分くらいをセラピストとクライエントの「会話」が占めていますが、依存症の人を抱える家族以外にも、例えば不登校や不安障害の子ども、配偶者を抱える家族にとっても、この会話の部分は応用できるかもしれません。

依存症というのは、アルコールや薬物以外でも様々です。例えば、不登校の子の多くが保護者に対して過度に依存する傾向があったり、強迫性障害のクライエントが配偶者に対して強迫的確認を求めるといった状態も広い意味で依存症です。