The Columban Simulation Projectとは、B. F. Skinnerと、Skinnerのお弟子さんの1人であるEpsteinらによって行われた一連の研究です。Computer simulation project と対比させた形で、ハトの学名(Columba liviaなど様々な分類があるようですが、詳細は把握していません)を文字ってSkinnerが名付けたようです。

  1. Epstein,R.,Lanza,R.P.,& Skinner,B.F. (1980). Symbolic communication between two pigeons (Columba livia domestica). Science, 207, 543-545.
  2. Epstein, R., Lanza, R. P., & Skinner, B. F. (1981). “Self-awareness” in the pigeon. Science. 
  3. Epstein, R. (1981). On pigeons and people: A preliminary look at the columban simulation project. The Behavior Analyst, 4, 43-55.
  4. Epstein, R., Kirshnit, C. E., Lanza, R. P. & Rubin, L. C. (1984). “Insight” in the pigeon: antecedents and determinants of an intelligent performance. Nature, 308. 61-62.
  5. Lanza R. P., Starr J., Skinner B. F.. (1982). “Lying” in the pigeon. Journal of the Experimental Analysis of Behavior. 38, 201-203.
  6. Epstein, R., & Skinner, B. F. (1981). The spontaneous use of memoranda by pigeons. Behavior Analysis letters, 1, 241-246.

論文の内容については、それぞれが読みやすい英語なので原文を読んでいただくことをお勧めしますが、ハトが記号をつついてお互いに”協力して”エサを食べたり、鏡を見て直接は見えない胸の青点をつついたり、直接訓練なしでも箱をつついて動かしてそこに登って対象をつついたりと驚く内容ばかりです。

動画も公開されています。

当時、様々な研究者がチンパンジーをはじめとする類人猿の認知能力についての報告を行っていました。

例えば、チンパンジーが11の記号を使って他のチンパンジーにエサをとってもらうというsymbolic communicationについての研究(Savage-Rumbaughら, 1978)や、チンパンジーが直接訓練されていないにも関わらず「2.5m離れた場所にあった箱を持ってきて高い所に吊るされたバナナを取る」という”洞察”についての報告(Kohler, 1925)、直接は見えない部分(顔の一部)につけられたインクを、鏡を見て、それを頼りに手で直接触ろうとするSelf-Recognition についての報告(Gallup, 1979)があります。それらの報告はまとめると「チンパンジーが複雑な行動を習得できるのは高い認知能力が備わっているから」という主張になります。

  1. Gallup, G. G., Jr. (1979). Self-recognition in primates. American Scientist, 67, 417-421.
  2. Kohler, W. (1925). The mentality of apes. London: Kegan Paul. 
  3. Savage-Rumbaugh, Rumbaugh, S Boysen, (1978). Symbolic communication between two chimpanzees (Pan troglodytes). Science  18 :201, 641-644.

(注意)上記3種類の文献は(1)しか原文を入手できておらず、内容については孫引き(他の文献の受けうり)になっています。情報が正確ではない可能性がありますのでご留意ください。

なぜ人間やチンパンジーにコミュニケーションなどの複雑な行動が可能なのか?という質問に対して、

①「チンパンジーには高い認知能力があるから、記号を用いたコミュニケーション(Symbolic communication)が可能なのだ」

と答えるとすれば、このような説明は、実は行動分析学では受け入れられない説明です。→詳細はこちら

なぜチンパンジーに高い認知能力があるとわかるのか?と聞けば、きっと、②「認知能力が高いのは、記号でコミュニケーションができることからも明白だ」と答えられることでしょう。

でも、①では記号でコミュニケーションができた理由をチンパンジーの認知能力で説明しています。つまりこれらは循環論になってしまうのです(解決の糸口が見えず、ただ循環するだけの原因推定)。

①「チンパンジーには高い認知能力があるから、記号を用いたコミュニケーション(Symbolic communication)が可能なのだ。」

②「認知能力が高いのは、記号でコミュニケーションができることからも明白だ」

これでは、実際に symbolic communication を教えるためにはどのような条件が必要なのかわかりません。Self-recognition や Insight という用語も同様に循環論に陥ってしまい、「どうしたらそれを教えられるのか」という問いには答えられません。 

そこで、「新しい言葉や概念的な原因推定をせずに、観察可能な少数の概念でも説明できるのではないか?」ということを目的として始まったプロジェクトなのです。行動分析学の論理は非常に明解だということが理解できるのではないでしょうか。

星槎大学の杉山尚子先生からお聞きしたお話によれば、どうやら Epstein と Skinner はケンカ別れをしたらしく、もしかしたら本プロジェクトは途中で終わってしまったかもしれないとのことでした。もしそうなら残念でなりません。

日本語で紹介されている関連文献も挙げておきます。

  1. 佐藤方哉(編) (1983). 現代基礎心理学6 学習Ⅱ. 東京大学出版会(浅野俊夫先生の章など3箇所に渡ってThe Columban Simulation Project の解説があります。「Epstein」で索引検索をすると該当ページがわかります)
  2. 長谷川芳典 (1994). スキナー以後の行動分析学: (4)よく知られた心理学実験を再考する(その1). 岡山大学文学部紀要, 22, 21-38.