【洗浄強迫の一例】

 竹中さん(仮称)は、学生時代は趣味仲間と共にイベントに参加したり旅行したりすることを楽しむ生活を送り、潔癖というわけでもなく日常を過ごしていました。

 就職をきっかけに一人暮らしを始めたのですが、慣れない仕事はかなり大変だったようです。そのころから汚れが気になるようになり、手洗いの時間が長くなり始めました。トイレから出たときや帰宅した時、石鹸をつけて念入りに手洗いをしました。そのうちシャワーの時間も長くなり、水道代の請求は倍になり、手は真っ赤に荒れてしまいました。手洗い以外にも、帰宅すると鞄は玄関に置いて室内には絶対に持ち込まず、服も玄関で脱いでお風呂場に直行してシャワーを浴びるようになりました。久しぶりに実家に帰ると、家族のふるまいが気になり、手洗いをするように指示したり、荷物を下に置かないように訴えたりしました。

 そのような生活が続く中、職場でトイレに行くと手洗いに時間がかかりなかなか席に戻らない事が続いていたため、心配した上司からどうしたのかと聞かれました。竹中さんは初めて手洗いの事を相談すると治療をすすめられました。


 この事例以外でも、次のようなことでお困りではないでしょうか?

  • とても長い時間をかけて手を洗ったり、お風呂に入る。
  • 1日のうちに何回も手を洗ったり、お風呂に入ってしまう。
  • 排尿や排便をしたときに、たくさんトイレットペーパーを使ってきれいにしないと気が済まない。
  • 外着のまま家に入ることができず、玄関で服を脱いで風呂場に直行する。
  • 「汚れ」や「菌」が嫌で、すぐに除菌シートで拭いてしまう。
  • 「清潔に保つ」ためのルールを、家族にも求めてしまう。
  • 家のなかを汚されるのが嫌で、ついつい子どもを叱ってしまう

【それはもしかしたら、洗浄強迫かもしれません】

 洗浄強迫とは、強迫性障害(強迫症)の1つです。

 強迫性障害とは、一般的には「心配や不安が頭から離れず生活に支障が出ている状態で、ある儀式行為をすると、その心配や不安が一時的に消えるため、儀式を繰り返してしまう」精神疾患です。儀式が数十分から数時間と長くなったり、一日何回も繰り返したりすることで、儀式行為自体が苦痛になります。そして、重度の方ではひきこもったり、一日中寝ていたりします。

 そのなかでも、洗浄強迫の人は「手や体に菌がついている/汚れている」「自分が汚れを持ち込んで大切な物を汚染してしまう」といった強迫観念があることが多く、この考えを打ち消すためにくり返し手を洗ったり、長い時間をかけて身体を洗ったり、徹底的に掃除や除菌をしたりといった強迫行為をしています。

 強迫行為(洗浄や除菌行為)をすると、心配や不安が減少するようですが、それは一時的で長続きしません。生活をしていれば、またすぐに汚れや菌がついたのではないか?と気になって、また強迫行為を繰り返していきます。繰り返しているうちに、洗浄時間がどんどん長くなったり、洗浄するのがおっくうで、そもそも汚れないように、徹底的に汚れや菌を避ける生活スタイルになってしまいます。洗浄行為や避ける生活が極端になると、日常生活にも支障が出てしまいます。

【洗浄強迫を改善するためのヒント】

 REONカウンセリングでは、まずは、生活の中で繰り返される強迫行為(洗浄・除菌行為)を細かく整理していくことから始めます。

 クライエントと強迫行為を探す際に、手を洗う、風呂に入るといった目立つ洗浄・除菌行為はすぐに整理ができることが多いのですが、一方で、生活のなかには自分では、いつの間にか“自然に”“当たり前に”やっている洗浄・除菌行為があることがほとんどです。例えば、不安にならないように、特定の場所や活動を「回避する」という場合には、自分では気づけないことが多くあります。こういった生活の中での強迫行為をいかに見つけるかが、とても重要です。

【巻き込みについて】

 洗浄強迫に限りませんが、強迫性障害でお困りの方の中には、家族に強迫行為を手伝ってもらっている方がいます。

 そして、本人のために「なんとかしてあげたい」と強迫行為を手伝うことで、実は症状を維持させたり、悪化させてしまうことがあります。これを“巻き込み”といいます。

 そのため、本人のみならず、家族が一緒にカウンセリングに参加することがとても重要です。

 具体的には、本人からの“巻き込み”を整理したり、強迫行為(例えば、手洗い)をしているときの対応(声掛けや態度など)や“巻き込み”(「手を除菌シートで拭いて」と言われる)への対応について話し合ったり、本人が取り組む時にどのようにサポートできるか?について話し合います。