【確認強迫の一例】
山本さん(仮称)は元々心配性なところはありましたが、生活に支障が出るほどではなく、仕事も趣味も全力で取り組んでいました。
ある時、道を歩いていて何か落とし物をしたのではないかと気になり、後ろを振り返りました。振り返っても何もありませんでしたが、「何か落とした気がしたな」と少しモヤモヤした気持ちになりました。
しばらくしてから、気づいたら、道を歩いている時に振り返って確認することが増えていました。歩いている時に、後ろで何か物が落ちるような音(どさっ、かさっ、コン)や、それに似た音、「えっ」「わー」などの他の人の声などがすると、立ち止まって振り返り、数秒確認をするのです。振り返って見ても、何かが見つかったことは一度もありませんでしたが、いつの間にか振り返る回数は増えていきました。
さらに、道を歩いている時以外にも確認する場面は増えていき、玄関の鍵をかけたかどうか何度も確認しないとドアから離れられなくなりました。自転車で道を走っていて人とすれ違うと、怪我をさせたのではないかと、すれ違った場所まで戻って何度も確認しました。自分で確認するだけでは安心できず、家族にすれ違った場所まで確認しに行くことを求めることもありました。頭の中では「大丈夫、大丈夫、」と何度も繰り返していましたが、そのくり返しもどんどん増えていきました。確認以外にも、間違って大切な物を捨ててしまうのではないかと気になり、物を捨てることができず、自分の部屋の中は物でいっぱいになりました。
元々活動的だった山本さんでしたが、確認行動が増えるとともに、外出に時間がかかるようになり、外出がおっくうになって家にひきこもりがちの生活になっていきました。
そんな山本さんの様子を家族が心配し、何かできることはないか?と相談にきました。
この山本さんの事例以外でも、次のようなことでお困りではないでしょうか?
- 鍵をかけたかどうか気になり、ドアノブをガチャガチャと必要以上にまわして、確認する。一度家から離れたのに、家に引き返すことがある。
- 外出時にはコンロの火を消したか、電気を消したか、水道を止めたかの確認を過剰にしてしまい、外出するまでに時間がかかる。
- 車が人にぶつかったのではないか? と心配になり、道を戻って確認したり、警察や消防に電話をかけて事故が無かったか確認する。
- 翌日の新聞で事故や事件になっていないかをくまなく確認する。
- 大事な物を落としてしまったのではないかと、振り返り確認したり、同じ道を行ったり来たり何往復もする。
- 仕事で間違いがないか、何度もチェックをしたり、周囲に必要以上に確認してしまう。
- 鍵をかけたか、落とし物がないかなど、家族に確認してもらう。家族に「大丈夫だよ」と言ってもらわないと気が済まない。
【それはもしかしたら確認強迫かもしれません】
確認強迫とは強迫性障害(強迫症)の1つです。
強迫性障害とは、一般的には「心配や不安が頭から離れず生活に支障が出ている状態で、ある儀式行為をすると、その心配や不安が一時的に消えるため、儀式を繰り返してしまう」精神疾患です。儀式が数十分から数時間と長くなったり、一日何回も繰り返したりすることで儀式行為自体が苦痛になります。そして、重度の方ではひきこもったり、一日中寝ていたりします。
その中でも、確認強迫の人は「鍵をかけ忘れていたら泥棒に入られてしまう」「火を消し忘れていたら火事になってしまう」「ミスを見落としていたら、取り返しのつかないことになってしまう」「人を怪我させてしまったかも…」といった強迫観念が浮かぶ事が多く、この考えを打ち消すために、何度も自分で確認したり、家族に確認を求めるといった強迫行為をしています。
強迫行為をすると、一時的には心配や不安が減少するようですが、長続きはしません。生活をしていくなかで、「いま、大切なものを落としたかもしれない…」「さっき、運転中に音がしたけど、人にぶつかってなかったかな?」などと、確認したくなる場面は避けられません。そして、確認行動が増えていきます。人によっては頭の中で気になる場面を思い出し何度も確認(反芻)を繰り返す人もいます。
外出時に戸締りの確認をしたり、ミスや忘れ物がないか確認をしたりすることは自然なことですが、確認強迫の人の確認は、確認しても納得できず、確認行動が過剰になって多くの時間を確認に費やしたり、確認が必要な状況を避けるようになり、生活に支障が出てきます。
【確認強迫を改善するためのヒント】
REONカウンセリングでは、まずは、生活の中でくりかえされる強迫行為(確認行為)を細かく整理していくことから始めます。
クライエントと強迫行為を探す際に、鍵をかけたかどうかの確認をする、ガスや水道を止めたかの確認をするといった、目立つ確認行為はすぐに整理ができることが多いのですが、一方で生活のなかには自分では、いつの間にか“自然に”“当たり前に”やっている確認行為があることがほとんどです。例えば、不安にならない様に、特定の場所や活動を「回避する」という場合には、自分では気づけないことが多くあります。こういった生活の中での強迫行為をいかに見つけるかがとても重要です。
【巻き込みについて】
確認強迫にかぎりませんが、強迫性障害でお困りの方の中には、家族に強迫行為を手伝ってもらっている方がいます。
そして、本人の「しんどさ」を「少しでも軽減してあげたい」と強迫行為を手伝うことで、実は症状を維持させたり、悪化させてしまうことがあります。
これを“巻き込み”といいます。“イネイブリング”ということもあります。
そのため、本人のみならず、ご家族が一緒にカウンセリングに参加することがとても重要です。
具体的には、本人から“巻き込み”を整理したり、強迫行為(例えば、確認行為)をしている時の対応(声掛けや態度など)や“巻き込み”(「鍵をかけたっけ?」「見てきてくれない?」と確認を求められる)への対応について話し合ったり、本人が取り組むときにどのようにサポートできるか?について話し合います。